【開催レポート】Truth to Earn:真正性が創る新経済圏 〜<IoT/DePIN × ICP>10兆円市場への挑戦〜
- Sho T
- 6月17日
- 読了時間: 14分
更新日:4 日前

概要
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2025年6月14日、ICP Japanは bypp株式会社 とともに、『【IoT/DePIN × ICP】ブロックチェーンが拓くデータ信頼性革命』を開催しました。これまで技術的に「できそうでできなかった」IoTデータの真正性証明を、「ICP (Internet Computer Protocol) とdeCPU (bypp独自開発) の組み合わせ」で実現し、10兆円を超える巨大市場を切り拓く戦略について、有識者を交えた議論、及び「IoTガチャ」によるデモPoC等の体験を通じて共有しました。
はじめに:なぜ今、「Truth to Earn」なのか
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すでにAIが生成する偽情報(ディープフェイク)は見分けがつかないレベルになってきています。そして今後、IoT・AI・自動化技術の進歩により、私たちの生活はますます「データに依存」するようになります。このように、現代社会は「真実とは何か」を問われる時代に突入しています。
※生成AIで簡単に現実に見間違えるディープフェイクも作れる↓

1. できそうでできなかった、IoTの真正性
1.1 従来システムの限界
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IoTは「Internet of Things」として長年注目されてきましたが、実際の社会実装において決定的な課題を抱えていました。
<データの信頼性問題>
最も根本的な課題は、センサーから取得したデータが「本当にそのセンサーから送られたものか」を証明することの困難さにあります。データが経路上で改ざんされたり差し替えられたりするリスクに加え、悪意のあるデバイスから意図的に偽のデータが混入される可能性も排除できないことです。
→ 💡後に説明する「ICP + deCPU」で解決できる
※重要なサービス/インフラとIoTが結びつくことで、自動化社会等が実現される一方で、真正性改ざん等のリスクも高まる

<中央集権型インフラの脆弱性>
従来のIoTシステムは中央集権型アーキテクチャに依存しているため、単一障害点による大規模システム停止のリスクを抱えています。例として2023年にAWSの大規模システム障害によりニューヨーク地下鉄のデジタルアラート更新やCOVID-19検査サイトなどが一時停止する(*)など、中央集権型システムの脆弱性が現実のものとなっています。
→ 💡ICPは止まらない分散型クラウドのため回避可能(参考)
<検証コストの高さ>
データの真正性を確認するためには複雑な手続きが必要で、特にリアルタイムでの検証は技術的に困難とされてきています。システムがスケールすればするほど検証コストは急激に増加し、実用的なレベルでの運用を困難にしています。
→ 💡後述する「ICP + deCPU」により、従来中央サーバーに蓄積・参照させていた検証ステップ(DB 照会、証明書チェーン検証、失効リスト確認など)を経ずに、数ミリ秒レベルでの検証完結が想定
<デバイス認証の複雑性>
現在の業界では、各企業が独自の囲い込み戦略を採用している。保険業界では各社が専用のドライブレコーダーを提供し、そのデータは他社では利用できない状況が続いています。このようなデバイスごとの個別認証管理は運用コストを押し上げ、相互運用性を著しく阻害しています。
→ 💡後述するICPのセルフオーセンティケーションIDとdeCPUのエッジ検証機能を組み合わせることで、デバイス認証の個別管理から脱却し、相互運用性を向上させるアーキテクチャを想定
1.2 なぜ解決できなかったのか
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これらの課題は技術的には「解決できそう」に見えていました。しかし、暗号化、認証、分散台帳といった個別技術はそれぞれ存在していたものの、これらを統合して一貫したソリューションを提供するアーキテクチャが欠けていました。特に、エッジデバイスからクラウドサービスまでの全工程において一貫したセキュリティ設計を実現することは技術的に困難とされてきたためです。
2. できるアーキテクチャ:ICP + deCPU
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今回、「ICP + deCPU」によって、上述してきた課題をクリアできるアーキテクチャが可能となる想定です。

2.1 ICPの革新的機能
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Internet Computer Protocol (ICP) は、これまでの課題を根本から解決する4つの革新的機能を提供します。
<① セルフオーセンティケーティングID>
ICPによる最も革新的な機能の一つが、他のブロックチェーンには存在しないセルフオーセンティケーティングID(*)です。この技術により、ハードウェア側で生成したIDとクラウド側(分散クラウド側)のIDを完全に連携させることが可能となり、オフチェーンでも検証可能な自己証明システムを構築できます。これにより、Web2とWeb3の真の融合が実現されます。

<② HTTPSアウトコール>
既存のインターネットインフラとの直接連携を可能にするHTTPSアウトコール機能(*)により、特別なAPI開発を行うことなくIoTデバイスとの通信が実現されます。この機能は、レガシーシステムとの段階的統合を可能にし、リアルタイム双方向通信を実現します。
<③ ChainFusion + 認証統合>
Chain FusionはICPのCanister(スマートコントラクト)がThreshold ECDSA/Schnorr署名等を用いてEthereumやBitcoinなど他チェーン上で直接トランザクションを生成・送信できるマルチチェーン相互運用性基盤(*)です。また、Chain Fusionは、ICPのCanisterがHTTPS outcall機能を活用して外部Web2サービスと確定的にやり取りもできるため、Web3アプリケーションと従来のWeb2認証フローをシームレスに統合可能です。これにより、ICPのセルフオーセンティケーションIDを核とする認証を組み合わせることで、ユーザー/IoTは単一のICPプリンシパル(Self-Authenticating Principal)を使い、複数チェーンやweb3-web2にまたがるアプリケーションへパスワードレスでシームレスにログイン・操作できるようになります。
<④ VetKeys(閾値暗号)>
vetKeysはICPのcanister上で動作する「verifiably encrypted threshold key derivation(vetKD)」プロトコルにより、秘密鍵マテリアルをサブネットノードの閾値合意によって分散的に派生・管理できる機能(*)です。これにより、暗号化された機密データをオンチェーンに安全に格納・利用することが可能となります(要するに、IoT データをエンドツーエンドで暗号化しつつオンチェーンで安全にやり取りし、第三者による介入や閲覧を防止できます。これにより、医療データや産業センサー情報といったセンシティブ情報を、プライバシーを確保しながら複数のステークホルダー間で共有・検証できる環境が実現します)。
※ただし、個人情報の匿名化やデータそのものの部分公開を実現するZero-Knowledge Proof技術は含まれておらず、医療データなどをセンシティブ情報のまま匿名性を保って検証可能とするには、別途ZKPや匿名化フレームワークとの組み合わせが必要です。
2.2 deCPU:分散型コンピューティングの新概念(from bypp)
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bypp社が開発した「deCPU(Decentralized CPU)」は、単なるIoTデバイスを超えた分散型物理インフラストラクチャを実現します。
<エッジでの完全処理>
deCPUシステムでは、センサーから取得したデータを即座に暗号化・署名処理することで、データの改ざんを根本から防止します。また、ローカル環境で検証可能なIDを生成し、改ざん不可能なデータ証明書を発行することで、データの真正性を担保する仕組みを構築します。
※イメージ

また、deCPUは従来の「処理を行うCPU」から「処理を記録するCPU」への根本的な発想転換を実現。ハードウェアで発生した事象を改ざん不可能な形で記録し、証明可能なデータを生成する環境を提供します。
3. 何がポテンシャルか?
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3.1 IoT / AI / 自動化社会:リスクをゼロに
<前提となる社会変化>
現代社会は急速にIoT、AI、自動化に依存する構造へと変化している。この変化は不可逆的であり、国際競争の観点からも避けて通れない道です。
参考)IoTデバイスの急増へ

<リスクシナリオとその解決>
今後IoT×AIによる社会の加速が進む中で、もしも改ざんリスクやディープフェイク、システム停止、リアルタイム性の喪失等、検証不可等が発生した場合(真正性の欠如)、社会全体に与える影響の大きさ(リスク)も、その便利さや利点の大きさの分、大きくなります。
例①:自動運転社会でのデータ改ざん
自動運転車両が普及した社会において、交通信号や道路状況データ(IoT)が悪意ある第三者によって改ざんされた場合、大規模な交通事故が発生する可能性があります。Truth to Earnシステムでは、真正性が証明されたセンサーデータを自動制御システムで使用することにより、このようなリスクを根本から排除することができます。
例②:医療AIの誤診リスク
AI診断システムが偽装された生体データを基に判断を行った場合、誤診や不適切な薬物投与によって患者の生命に関わる重大な事故が発生する恐れがあります。出生証明付きのバイタルデータを活用することで、医療AIシステムの診断精度を飛躍的に向上させ、患者の安全性を確保することが可能となります。
例③:金融・保険での不正請求
自動車事故などの保険請求において、偽装された事故データを用いた不正請求が横行する可能性があります。ドライブレコーダーやその他センサーから取得した検証可能データを活用することにより、保険会社は正確な事故状況を把握し、適切な保険金支払いを実現できるようになります。
3.2 付加価値創出:ゼロからプラスへ
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<従来の発想のアップデート>
これまでのIoTは上述のように「リスクを回避する」マイナスへの対処が中心でした。Truth to Earnは「価値を創造する」プラスへの転換も促します。
① 価値流動の革命
例:不動産業界での応用
従来は外観や立地条件のみで判断されがちだった不動産価値が、Truth to Earnシステムにより根本的に変革されます。修繕履歴や使用履歴の完全な透明性により、同じ外観の建物であっても明確な価格差別化が可能となる。例えば著名人の使用歴や詳細な環境データなどの付加価値情報を活用することで、従来では不可能だった価値創出が実現され(あの人が使ったなら私も使いたい、etc、さらにリアルタイムでの資産価値評価により、より動的で効率的な不動産市場/ダイナミックプライシングが形成されます。
例:工芸品・アート市場
伝統工芸品やアート作品において、製作プロセス全体を記録することで確実な真正性証明が可能となります。作家の制作環境や時間投下量を詳細に可視化することにより、作品の価値をより客観的に評価できるようにもなります。デジタル証明書を付与された作品は、偽造品との明確な区別が可能となり、市場価値の大幅な向上が期待されます。
② 匿名共有・データ主権 + 報酬エコシステムの確立
例:個人データの新しい活用モデル
医療分野では、患者個人を特定することは不可能としながらも、統計的に有意なデータを研究機関に提供すること等がIoTレベルのデータで可能となります(プライバシーや主権を守りながら社会貢献による報酬システム等)。研究分野においては、個人のプライバシーを完全に保護しながらも有用な行動データを学術研究に活用でき、マーケティング分野では個人を特定することなく消費者トレンド分析に必要なデータを企業に提供すること等ができるようになります。
例:データ主権の実現
個人が自分のデータを完全にコントロールできる環境が整備され、IoTを含むデータの利用許可について期間、用途、相手先などの細かな設定が可能となります。さらに重要なことは、自分のデータが利用されることに対して直接的な経済的対価を受け取ることができるようになることです。これにより、これまで一方的に搾取されてきた個人データが、個人にとって真の資産として機能するようになります。
③ 新しいエコノミクスの創出
参加型経済モデル
Truth to Earnシステムでは、DePIN参加者がデバイスを設置し高品質なデータを提供することでトークンを獲得できる仕組みも構築・検討され得ます。データ利用者は、従来では入手困難だった高品質で真正性が保証されたデータに対して適切な対価を支払い、バリデーターはデータの検証作業を行うことで報酬を得ることができます。このように、エコシステム内の全ての参加者が明確な経済的インセンティブを持つ持続可能な経済モデルが実現されます。
マイクロエコノミーの形成
個々のIoTデバイスが独立した経済主体として機能することにより、センサーデータの品質に応じた市場価格が自然に形成される可能性があります。このシステムでは、需要と供給の関係がリアルタイムで調整され、最も効率的な資源配分が自動的に実現されます。従来の中央集権型システムでは不可能だった、きめ細かな価格設定と柔軟な取引が可能となります。
3.3 市場ポテンシャル:10兆円からの無限拡張
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<市場規模の算出根拠>
グローバルIoT市場は2026年に初めて1兆ドルを超える見通し(*)で、データの真正性に対するプレミアムを20%と見積もると、2,000億ドル(約30兆円)の追加市場が創出されます。DePINマーケットは2028年に3.5兆ドル規模に成長すると予測され(*)、年成長率25%で拡大するデータマーケットプレイスは2030年に57.3億ドルに達すると見込まれています(*)。
<無限拡張の可能性>
物理世界のデジタル化が進むにつれ、あらゆる物体にセンサーが搭載され、リアルタイム状態監視が全面的に普及することになります。この変化により、デジタルツイン市場との融合が進み、従来の市場カテゴリーを超えた新産業が次々と誕生します。データファーミング産業、真正性保険業、リアルタイムオークション市場、分散型品質管理サービスなど、これまで存在しなかった全く新しいビジネス領域が開拓されるでしょう。
4. byppによるIoTガチャでのコンセプト実証:ICP + deCPU で市場を切り拓く
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今回のデモンストレーションでは、bypp社による IoTガチャシステム を通じて、Truth to Earnの可能性を参加者は体験しました。
<技術的実装>
スマートフォン
↓ (QRコード認証)
Internet Identity (II)
↓ (認証情報)
ICPメインネット・キャニスター
↓ (HTTPSアウトコール)
物理ガチャガチャデバイス
↓ (動作フィードバック)
リアルタイム状態更新
※デモの解説動画↓
<実証された価値>
透明性:当たりの実在証明、排出履歴の完全記録
分散制御:中央サーバー不要の直接デバイス操作
ユーザビリティ:従来のWeb2 UXを保持しながらWeb3機能を実現
実機デモの感動体験
5.1 「未来が今ここに」の実感
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今回のIoTガチャデモンストレーションは、参加者に「これまで理論だったものが現実になった瞬間」を体験させました。
5.2 技術的感動ポイント
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「え、今のブロックチェーン(分散クラウド)経由だったの?」
多くの参加者が驚いたのは、Web3技術を使用していることを意識させない滑らかなユーザーエクスペリエンスでした。
<従来のWeb3 UXの課題>
これまでのWeb3技術は、一般ユーザーにとって極めて使いにくいものでした。複雑なウォレット設定プロセス、高額なガス代の支払い、遅いトランザクション処理、そして一般人には理解困難な専門用語の乱用など、多くの障壁が存在していました。
<ICPによる解決>
ICPはこれらの課題を根本から解決しています。ワンクリックで完了する認証システム、ガス代が実質ゼロの取引環境、即座のレスポンスを実現するトランザクション処理、そして直感的に理解できるインターフェースの提供により、一般ユーザーでも違和感なく使用できるWeb3環境を実現しています。今回のデモでは、多くの参加者が「これが本当にweb3技術を使用しているのか」と驚くほどの滑らかなユーザーエクスペリエンスを提供することができていました。
5.3 横展開可能性
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「一つできれば、何でもできる」
IoTガチャという単純なデバイスでの成功実証は、あらゆるIoTデバイスへの応用可能性を示しました。
<応用可能領域>
IoTガチャという比較的単純なデバイスでの成功実証は、この技術があらゆるIoTデバイスに適用可能であることを示しました。例えば自動販売機では、スマート決済システムと高度な在庫管理の統合が実現される可能性があります。監視カメラシステムでは、中央集権型サーバーに依存しない分散型セキュリティネットワークの構築が可能となります。
環境センサーの分野では、リアルタイム気象予測の精度向上により、災害対策や農業支援での活用が期待されます。医療機器においては、患者データの安全な管理と医療従事者間での確実な情報共有が実現される可能性があります。農業センサーでは、精密農業の推進とともに食品トレーサビリティの完全透明化が可能となり、消費者の食の安全に対する要求に応えることができます。このように、一つの技術実証が成功すれば、その応用範囲は無限に広がっていく可能性を秘めています。
まとめ:Truth to Earnが描く未来
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変革のインパクト
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今回、単なる技術革新を超えた社会システムの根本的変革をもたらす体感が得られました。
Truth to Earnの普及により、データが投機的なものではなく、実用的価値を持つ真の資産として社会に認識されるようになるでしょう。個人は自分のデータに対する完全な主権を掌握し、データの利用に関するあらゆる決定権を持つようになります。そして、透明性と効率性を両立した全く新しい市場が創出され、従来の中央集権型経済システムでは実現不可能だった公平で効率的な価値交換が実現されるでしょう。
<社会インフラの進化>
社会全体における信頼構築のコストが劇的に低下し、複雑な契約や検証プロセスが大幅に簡素化されます。分散型システムによる高いレジリエンスにより、単一障害点による大規模システム停止のリスクが排除され、社会インフラの安全性が飛躍的に向上します。さらに、AI・自動化社会の基盤となる高品質データの安定供給により、技術革新と社会安全性の両立が実現されます。
<人々の生活の向上>
個人は自分のデータを提供することで新しい収入源を得ることができるようになり、経済的自立の選択肢が拡大します。個人のプライバシーが完全に保護されながらも、社会全体の利便性向上に貢献できる仕組みにより、個人の権利と社会的利益の調和が図られます。その結果、より公平で透明、かつ持続可能な社会システムが構築されます。
ICP Japan
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