web3FMコラボ:『なぜ今ICPなのか?♾ICP JapanのSho Tさんに聞く分散型クラウドの未来、サイファーパンクを再興しよう』
- Sho T
- 13 時間前
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概要
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本レポートは、Web3FMのビデオポッドキャスト番組『なぜ今ICPなのか? ICP JAPANのSho T(高橋 翔)さんに聞く分散型クラウドの未来』の内容をざっくり記したものです。
分散型クラウドであるInternet Computer Protocol(ICP)の技術的な特徴、ICP JAPANの活動背景と今後の展開、Web3エコシステムにおけるICPの位置づけ、データ主権の重要性、そしてFuturistとしての壮大な未来ビジョンについて深掘りしたディスカッションの内容を網羅しています。特に、ICPハッカソン2025の成果や、エンタープライズ連携、そしてサイファーパンク思想の再興といったテーマに焦点を当てています。
YouTube番組↓(クリックして動画も見れます / 本ページの下記に概要レポートも)
0:00 自己紹介(Sho T / 高橋 翔)
5:44 ICP Japan立ち上げの背景
10:22 ICP(Internet Computer Protocol)とは?
14:20 データ主権について / 情報がより生命線になる
18:07 世界中のデータセンター・ノード上で仮想の分散コンピューティング環境として開発可能
21:18 トラストレスにマルチチェーン開発が可能
28:40 web2-web3インターオペラビリティもトラストレスに可能
30:50 Web3やインターネットエコシステム内でのICPの位置づけ
35:05 デジタル公共コモンズ / 企業や国家や社会あらゆる単位でのデータ主権と公共の実現
38:49 ソブリンクラウド事例(EUサブネット, 国連とのデジタル認証実証実験等)
41:18 ICPハッカソン2025の振り返り概要(116件提出, メインネットMVPも19)
46:55 電通総研のVCsソリューションへのMVPも誕生(デジタル証明書革命へ/5月末企画〜)
52:32 IoT×RWA×ソーシャルAIエージェントの事例およびテーマ創出(6月以降)
57:16 ハッカソンからの成果 / PJインキュベーション×エンタープライズの戦略性
1:01:32 ICP Japanメンバーのモチベーションの源泉
1:04:56 今後の展開・ICP Japanの展開
1:11:04 Futurist(フューチャリスト)のビジョン:分散マルチエージェント → マルチチェーン(金融/ガバナンス)→ Spatial Web(空間) → マルチバース...その前提としてトラストレスが重要
1:17:12 サイファーパンクを再興しよう
5:44 ICP Japan立ち上げの背景
Sho T(高橋 翔)氏がICPの存在を知ったのは2019年頃で、メインネットローンチは2021年。本格的な活動を開始したのはメインネットローンチから1年後の2022年。クラウドのプロトコル化というICPのポジショニングが当時他にほぼ見られず、分散型のあり方として面白いと感じたことがきっかけ。当初は、客員教授を務めていた大学のサイドプロジェクトとして、インキュベーション環境を作る目的で活動を開始。その後、Dfinity財団と連絡を取りつつ体制が整い、2024年から株式会社Pacific Metaの参画も得て、財団と連携する形でICP JAPANを正式に立ち上げた。
10:22 ICP(Internet Computer Protocol)とは?
ICPは一言で言えば「分散型クラウド」。現在のインターネットは、TCP/IPのようなプロトコル層の上で、AWSのようなベンダー運営のクラウド上でソフトウェアやアプリケーションがホストされている。しかし、これらは中央集権的であり、例えばデータセンターに問題が発生すれば停止するリスクがある。また、ブロックチェーンは通常データベース層のみを分散化し、フロントエンドやバックエンドは従来のクラウドに依存している現状がある。
ICPは、このアプリケーションやソフトウェアのホスト層自体を分散化しようという試み。世界中に分散したデータセンターのノードがICPプロトコルに参加し、そのノードを束ねた「サブネット」上で開発者がアプリケーションやスマートコントラクトをデプロイできる仮想のコンピューティング環境を提供する。開発者はRustやTypeScript、Pythonなどの一般的な言語で開発が可能で、これらはWebAssembly(Wasm)に変換されて実行されるため高速に動作する。
14:20 データ主権について / 情報がより生命線になる
AIエージェントの登場によりデータが非常に重要になっている現代において、「データ主権」は重要な課題。データが特定の集権的なサーバーに置かれている現状では、個人、企業、国家レベルでデータ主権が脅かされる可能性がある。インターネットがデータを領土とするなら、どこにデータを置くかは生命線となる。ICPのような分散型クラウドは、集権的なサーバーへの依存をなくし、データ主権を守るための構築環境、そしてユーザーにとっての利用環境を提供する側面を持つ。これはサイファーパンク的な思想やローカルファーストソフトウェアの考え方とも繋がる。
18:07 世界中のデータセンター・ノード上で仮想の分散コンピューティング環境として開発可能
ICPは、世界中のデータセンターにあるノードがICPプロトコルに参加することでネットワークを構築。これらのノードはNNS(ICPのDAOのようなもの)の承認を経て参加する。参加したノードは「サブネット」という単位で束ねられ、開発者はこのサブネット上にアプリケーションやスマートコントラクトをデプロイする。サブネットは通常約13個のノードで構成され、秘密鍵を分散管理することでトラストレスな運用を実現している。全体として、世界中のノードを束ねた仮想のコンピューティング環境(仮想クラウド/仮想PC)として機能する。ICPのダッシュボードで現在のノード数やサブネットを確認できる。
21:18 トラストレスにマルチチェーン開発が可能
ICPのサブネットは、ECDSA署名などの仕組みを利用して、イーサリアムやビットコイン、ソラナなど他のブロックチェーンのノードのように振る舞うことができる。これにより、ICP上で開発されたアプリケーションが、他のチェーンとトラストレスに直接連携し、トランザクションを送受信することが可能になる。これを「チェーンフュージョン(Chain-Fusion)」と呼び、異なるチェーンをあたかも一つの開発環境、またはユーザーから見て一つのサービスのように扱えるようにする。現在、約20種類以上のチェーンに対応している。開発者はICP上で一般的な言語で開発しつつ、マルチチェーン対応のプロダクトを構築できる。Bitfinityのようなプロジェクトは、EVM開発者がICP上でマルチチェーン開発しやすい環境を整備している。
28:40 web2-web3インターオペラビリティもトラストレスに可能
ICPはブロックチェーン間の連携だけでなく、HTTPアウトコール機能により、従来のWeb2サービスともトラストレスに直接通信が可能。これにより、ICPはweb2とweb3のゲートウェイとしての役割も果たすことができる。例えば、分散型カストディをICP上に構築したり、分散型ID(DID)や検証可能な資格証明(VCs)をICPで管理し、他のマルチチェーンやweb2サービスと連携させることが考えられる。これは個人認証やデータ管理の側面で大きな可能性を秘めている。
30:50 Web3やインターネットエコシステム内でのICPの位置づけ
ICPは、イーサリアムやソラナのような他のL1チェーンとは異なる、独自のポジショニングを確立している。web3全体やインターネットエコシステムにおける位置づけとしては、「インターオペラビリティ」と「データ主権」の二つの側面から捉えることができる。特にAI時代においてはデータ主権の重要性が増しており、集権的なクラウドに依存しない分散型クラウドとしてのICPの価値が高まっている。インターネットエコシステム全体としては、AIエージェントやマルチチェーン、Spatial Web(空間)といった技術が発展し、将来的には無数の経済圏、ガバナンス、マルチバースへと繋がっていく可能性がある。この未来を実現するための前提条件として、ICPが提供するような分散型でトラストレスな基盤が不可欠となる。
35:05 デジタル公共コモンズ / 企業や国家や社会あらゆる単位でのデータ主権と公共の実現
データ主権は個人の問題にとどまらず、企業、DAO、国家といったあらゆる単位で重要となる。「デジタル公共コモンズ」という考え方に基づき、ICPのような分散型クラウド環境は公共財としての側面を持つ。国家レベルで考えれば、自国のデータ主権を守るために、特定の企業ではなく公共性の高い分散型クラウドを利用するという選択肢が生まれる。これは国家のソブリンクラウド構築にも繋がる。ICPの技術を応用し、特定の地域(例:ヨーロッパ)にあるノードのみを集めたサブネットを構築し、地域分散型クラウドを実現する事例も存在する。安全保障の観点からも、分散型クラウドの重要性は増している。
38:49 ソブリンクラウド事例(EUサブネット, 国連とのデジタル認証実証実験等)
ソブリンクラウドの具体的な事例として、ヨーロッパ域内のノードを集めた「European Subnet」の構築が挙げられる。これはヨーロッパの分散型クラウドとして機能し、データ主権を確保することを目的としている。また、アルゼンチンなど他の国でも自国のクラウド構築にICPを利用する動きがある。さらに、国連との連携で、デジタル認証(DID)や検証可能な資格証明を用いたデジタル認証の実証実験が進められている。これは、運転免許や資格証明書などのデジタル証明書を個人のIDに紐付け、複数のプラットフォームやサービス間でシームレスに利用できるようにする試みであり、将来的な金融的な価値創出にも繋がる可能性がある。日本国内でも、電通総研がVCsソリューションへのICP活用を検討している事例がある。
41:18 ICPハッカソン2025の振り返り概要(116件提出, メインネットMVPも19)
2025年1月から3月末にかけて開催された「ICPハッカソン2025」では、想定を大きく上回る116件の提出があった。ハッカソンはWave1からWave4まで継続的なテーマで進行し、Wave1では魅力的なコンテンツ制作、Wave2ではweb2-web3ゲートウェイ通信、Wave3ではサンプルキャニスターのデプロイ、Wave4ではICPを用いたDApps開発が行われた。Wave4では28件の提出があり、そのうち約19件がメインネットへのデプロイまで至った。参加者は100名前後。
46:55 電通総研のVCsソリューションへのMVPも誕生(デジタル証明書革命へ/5月末企画〜)
ICPハッカソン2025のWave4で最優秀賞を獲得したのは、電通総研のyasuo氏による、web2-web3ゲートウェイ通信、特にDID/VCs領域のプロダクト。これは、運転免許証や資格証明書、会員証などのデジタル証明書を個人のDIDに紐付け、複数プラットフォームやサービスで横断的に利用可能にするもの。例えば、マイナンバーのようなIDに紐付けられたデジタル証明書を、パスキー認証で様々なサービスにシームレスに連携させることができる。これにより、物理的なカードが不要になり、複数のプラットフォームでのデータ連携による新しいサービス創出が期待される。電通総研は既にTrusted Webという政府関連のブロックチェーンプラットフォームに関わっており、今回のハッカソン成果物を実際の事業として推進する方向で検討が進んでいる。5月末には、yasuo氏本人らによる詳細な説明を含む企画イベントが予定されている。
52:32 IoT×RWA×ソーシャルAIエージェントの事例およびテーマ創出(6月以降)
ハッカソンの成果や議論から、今後の注力テーマとして「ソーシャルAIエージェント」領域が挙げられる。これに関連して、IoTやRWA(現実資産トークン化)との連携も探求される。事例として、韓国で普及している充電スタンドサービスがICPと連携し、充電などのアクティビティをPlay-to-Earnのように価値化する取り組みが紹介された。また、ソーシャルメディアと連携したAIエージェント(例:vlywheel)が、スマートコントラクトを利用して特定の条件を満たしたユーザーに自動でトークン配布を行う事例も紹介された。ICPの分散型クラウド、認証、そしてHTTPsアウトコールによるWeb2連携を組み合わせることで、IoTやRWAといった物理世界との連携や、ソーシャルAIエージェントを用いた新しい価値分配の仕組みが実現可能となる。ハッカソン参加者の中にAIエージェント開発者がいたこともあり、6月以降はこの領域をテーマに推進していく方向性も議論されている。
57:16 ハッカソンからの成果 / PJインキュベーション×エンタープライズの戦略性
今回のハッカソンで得られたポジティブな成果は、実際に開発されたプロダクトがエンタープライズプロジェクトとの統合に繋がったこと、そしてICPの現段階での抽象性にも関わらず、注目している開発者が存在し、質の高い提出物から今後のテーマが見出されたこと。課題としては、ICPのユースケースや使いどころの明確化、そしてプロジェクトのインキュベーション戦略。単にハッカソンを繰り返すだけでなく、エンタープライズとの連携を視野に入れ、具体的なテーマ設定やMVP開発を行い、共同でハッカソンを実施するなどの戦略的なアプローチが必要。これにより、インキュベーションへの予算確保やプロジェクトの継続性を高めることができる。WaveHackの形式は継続的な改善評価に適しており、インキュベーションソリューションとして有効であると感じている。
1:01:32 ICP Japanメンバーのモチベーションの源泉
ICP JAPANの活動、特にハッカソンの運営は、Sho T(高橋 翔)氏だけでなく、ソーシャルメディア運用を担当する学生メンバーや、他にもHayato氏等のメンバーなど、多くの協力者によって支えられている。彼らのモチベーションの源泉は、必ずしも金銭的な報酬だけでなく、ICPというプロジェクトの面白さや将来性、そして「自分がやらなければ誰がやるのか」という思いにある。マーケットがまだ成熟していない段階で、BizDevやコミュニティ構築といった側面で積極的に関わる人が少ない中で、自分たちの活動に意義を見出している。
1:04:56 今後の展開・ICP Japanの展開
ICP JAPANの今後の展開としては、日本のマーケット特性を踏まえ、エンタープライズとの連携を強化していく。現在のユースケース不足や技術・思想への理解不足を乗り越えるため、電通総研のような企業やハッカソン参加者との連携を通じて、具体的なテーマ設定やMVP開発を進め、エンタープライズとの共同プロジェクトに繋げていく戦略をとる。また、ICPトークンの日本市場での取り扱いについても動きがある。グローバルなICPハブとの連携も行っていく。今回のハッカソンをきっかけにICPに興味を持った新規参加者も多く、彼らを巻き込みながらムーブメントを起こしていくことも重要。
1:11:04 Futurist(フューチャリスト)のビジョン:分散マルチエージェント >> マルチチェーン(金融/ガバナンスの民主化)>> Spatial Web(空間) >> マルチバース...その前提としてトラストレスが重要
FuturistとしてのSho T(高橋 翔)氏のビジョンは、現在の分散型マルチエージェント、マルチチェーン(金融/ガバナンスの民主化)といった技術が発展し、Spatial Web(IoT、メタバースなどデジタルとリアルの融合)と重なることで、将来的には無数の経済圏、ガバナンス、そして複数の現実が共存する「マルチバース」へと繋がっていくというもの。AIエージェントが普及する世界において、個人や組織、国家が自身のデータをコントロールし、多様な価値システムの中で活動するためには、このマルチバース化は避けられない方向性であると考える。そして、このマルチバースを実現するための前提条件として、ICPが提供するような分散型でトラストレスな基盤が不可欠である。集権的な仕組みでは、このような多様で開かれた未来は実現できない。
1:17:12 「サイファーパンクを再興しよう」
最後に、Sho T(高橋 翔)氏は「サイファーパンクを再興しよう」というメッセージを投げかけた。現在のweb3は短期的な投機や価格変動に注目が集まりがちだが、初期のサイファーパンクが持っていたような、技術による分散化やプライバシー保護、そして自由なインターネットの実現といった思想的な側面の重要性を強調。ICP JAPANの活動も、地方でのコミュニティ活動を含め、このような思想に共感する「サイファーパンク」な人々を集め、共にムーブメントを起こしていくことを目指している。
結論
Web3FM番組の今回のエピソードでは、ICP JAPANのSho Tをゲストに迎え、ICPが単なるブロックチェーンではなく、アプリケーション層まで含めた「分散型クラウド」として、従来のweb2クラウドや他のブロックチェーンとは異なるユニークな立ち位置にあることが明らかになりました。ICPの提供するトラストレスなマルチチェーン連携(チェーンフュージョン)やweb2との直接通信機能は、Web3の可能性を大きく広げるものです。AI時代におけるデータ主権の重要性が増す中で、個人、企業、国家レベルでのデータ主権確保やデジタル公共コモンズの実現において、ICPのような分散型基盤が果たす役割は大きいと言えます。
ICPハッカソン2025の成功は、日本におけるICPへの関心の高まりを示すとともに、電通総研との連携のような具体的なエンタープライズ連携の可能性を示唆しました。FuturistとしてのSho T氏のビジョンは、ICPが将来的なマルチバースの実現に向けた重要なピースであるという壮大なものであり、単なる技術的な議論を超えた思想的な深みを感じさせます。ICP JAPANは今後、エンタープライズ連携を強化しつつ、サイファーパンク精神に基づいたコミュニティ形成を通じて、日本におけるICPエコシステムの拡大を目指していく方針です。

ICP Japan
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