
概要
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大阪に続き、京都でのICP Meetupを開催しました。
京都にはサイファーパンクの思想に根付くコミュニティが存在し、クラウドまでプロトコル化するICPのコンセプトへの関心は広がりました。
(淀川沿いに佇む「京都ラボ」にて実施)
話し合われたトピックス一覧
Internet Computer Protocol (ICP)の基本概念と技術的特徴
ブロックチェーン技術と分散化の意義
トークンエコノミクスと暗号通貨設計
ICPの構造(サブネットとキャニスター)
ICPとクラウドサービス(AWS)の比較
vetkeysによる暗号化通信
ICPの実用事例とアプリケーション
コミュニティガバナンスと直接民主主義
シンギュラリティと技術進化の加速
エネルギー資源と計算能力の関係性
分散型社会システムの可能性
各トピックスのコンテクスト/文脈
Internet Computer Protocol (ICP)の基本概念と技術的特徴
ICPは「インターネットコンピュータープロトコル」の略で、インターネット上に誰のものでもない、中央管理者がいないクラウドコンピューティング環境を構築するプロジェクトです。従来のクラウドサービス(GoogleやAmazonが提供するサーバー)とは異なり、特定の企業に管理されていない分散型のインフラストラクチャです。
「インターネットを動かす基盤そのものを分散化できないか」という問いから生まれたこの技術は、サーバー管理の責任を特定の企業ではなく、参加者全体で分担する仕組みを提供します。これにより、検閲耐性が高く、停止しにくいサービスの実現を目指しています。
ブロックチェーン技術と分散化の意義
現代のインターネットは、大手IT企業によって中央集権的に管理されています。このシステムには、単一障害点、検閲のリスク、そして利用者のデータや権利が企業の判断に左右されるという問題があります。
ブロックチェーン技術は、この中央集権的な構造に代わる選択肢を提供します。参加者全員でデータと処理を検証することで、特定の権力者なしにシステムを維持できます。ICPはこの考え方をさらに発展させ、単なる取引台帳ではなく、Webサービス全体を分散化することを目指しています。
参加者の一人は「今の仕組みをもっとマシにできるんじゃないか」という問題意識からこの技術に興味を持ったと述べています。
トークンエコノミクスと暗号通貨設計
ICPには「ICPトークン」という暗号通貨が存在します。このトークンは単なる投機対象ではなく、システムの維持と運営に欠かせない要素です。参加者はトークンを保有することでネットワークの運営に関わり、その対価としてリターンを得ることができます。
Meetupでは「貨幣デザイナー」を自称する参加者が、通貨設計の重要性について言及。歴史的な経済モデル(江戸時代の米本位制など)から学び、新しい経済システムをデザインする可能性について議論されました。「お金をプログラムによってデザインできる」という考え方が、ブロックチェーンの革新的側面として強調されました。
ICPの構造(サブネットとキャニスター)
ICPは「サブネット」と呼ばれるノード(サーバー)のグループから構成されています。各サブネットは約13個のノードで構成され、これらが連携して処理を行います。
「キャニスター(Canister)」はICPのスマートコントラクト(自動実行プログラム)とストレージを組み合わせたもので、アプリケーションの実行単位です。従来のブロックチェーンと異なり、データの保存と処理の両方を扱えるため、より複雑なアプリケーションの開発が可能になります。
このサブネットとキャニスターの仕組みにより、ICPは従来のブロックチェーンよりも高速な処理(1秒間に約30ブロック)を実現しています。
ICPとクラウドサービス(AWS)の比較
Meetupでは、ICPと既存のクラウドサービス(Amazon Web Services[AWS]など)との比較が行われました。コスト面ではICPはAWSより若干高い側面が残るものの、以下の利点があると指摘されました:
停止しない耐障害性(分散化によりサーバーダウンのリスクが低減)
検閲耐性(特定の企業や国家による制御が困難)
セキュリティの透明性(オープンソースで監査可能)
永続的実行(一度デプロイされたアプリケーションは資金が続く限り動き続ける)
分散型のクラウドを介したプラットフォーム依存のない相互運用性通信
「普通のウェブと変わらない使い心地で、でも裏では分散化されている」という利点が強調されました。
vetkeysによる暗号化通信
ICPに実装されている「vetkeys」と呼ばれる機能は、エンドツーエンドの暗号化通信を実現するものです。これにより、ブロックチェーン上(分散クラウド上)でありながらプライバシーを確保した通信が可能になります。
技術的な詳細の説明に苦労する場面もありましたが、このような機能により「オープンなソースコードでありながら、データは適切に保護される」という理想的なシステムに近づくことが議論されました。
ICPの実用事例とアプリケーション
Meetupでは、ICPの具体的な活用例として以下が挙げられました:
チャットアプリケーション(リアルタイム通信が驚くほど速い)
TikTokのビデオホスティング(大規模コンテンツ配信の例)
データベース管理(SQLiteなどのRDBMSがICPで動作可能)
マルチチェーン統合のハブ(異なるブロックチェーン間の連携)
電子商取引プラットフォーム(「オープンなメルカリ」のようなC2Cマーケット)
参加者はこれらの具体例を通じて、ICPが単なる技術的実験ではなく、実用的なサービスを提供できる段階に近づいていることを示しました。
コミュニティガバナンスと直接民主主義
参加者の一人は京大吉田寮での直接民主主義の実践経験を共有しました。多数決ではなく、「全員が納得するまで話し合う」という原則に基づく意思決定プロセスは、時間がかかりながらも意義のある経験だったと述べています。
この経験を踏まえ、分散型技術を活用した新しい形のコミュニティガバナンスの可能性が議論されました。労働から解放された社会では、「徹底的な話し合い」や「自己決定」の価値が再評価されるという見方が示されました。
シンギュラリティと技術進化の加速
Meetupでは「シンギュラリティ」について議論があり、これが単に「AIが人間より賢くなる」という現象ではなく、社会構造そのものを変革する複合的な過程であるという見方が示されました。
「プレシンギュラリティ」という概念も提示され、現在はその前段階にあるという認識が共有されました。技術の進化速度が社会の適応能力を超えており、これが「非連続的な変化」をもたらす可能性が指摘されました。
エネルギー資源と計算能力の関係性
参加者の一人は、太陽光発電を利用して暗号通貨のマイニングをした経験を共有しました。この経験から、「太陽光エネルギーを計算能力に変換し、人類共通のインフラを維持する」という考え方が提示されました。
「これは究極の仕事だ」という表現で、再生可能エネルギーと分散型コンピューティングの融合が持つ可能性が強調されました。また、エネルギー自給と分散型社会の関係性についても言及があり、技術の進化が既存の集中型都市構造から分散型コミュニティへの移行を促す可能性が指摘されました。
分散型社会システムの可能性
全体を通じて、技術の進化が社会システムそのものを変革する可能性が議論されました。中央集権的な構造から分散型の構造へ、労働中心の価値観から自己決定や対話中心の価値観へという変化が、技術的基盤の変革によって促される可能性が示されました。
参加者からは「オフグリッドコミュニティ」の実現や、地方・限界集落における新しい生活様式の創出など、具体的なビジョンも共有されました。
全体のまとめ/整理
京都ICP勉強会は、単なる技術紹介を超えて、技術と社会の深い関係性を探求する場となりました。参加者の多様なバックグラウンド(エンジニア、哲学思想家、アーキテクト、起業家など)を反映し、議論は技術的詳細から哲学的考察まで広範囲に及びました。
洞察
ICPのような分散型技術は、単なるツールではなく社会構造そのものを変革する可能性を持つ
完全な分散化が理想ではなく、目的に応じた適切な分散度の設計が重要
太陽光などの再生可能エネルギーと計算能力の関係を再考する必要性
労働代替が進む社会での人間の役割と、意識や責任の所在についての深い問い
今後に向けて
参加者それぞれが持つ問題意識(中央集権への疑問、労働の未来、意識の本質など)が交差する場となり、技術の可能性を多角的に探求する貴重な機会となりました。ICPというテクノロジーを入り口に、未来社会のビジョンを共有し、その実現に向けた第一歩を踏み出す場を京都でも継続的に創出しようとと話し合われました。
ICP Japan
X: https://x.com/icphub_JP

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