ICPにおけるガバナンス 2024年:パート3 — NNS編
- ICP Japan
- 5月3日
- 読了時間: 7分
2024年が幕を閉じた今、私たちはこの1年のハイライトをコミュニティと共に振り返りつつ、2025年のInternet Computerにおけるガバナンスの展望も一部ご紹介したいと思います。
この3部構成のシリーズでは、技術的な主要成果、ICP全体を管理するNNS DAOと、個別のdappを管理するSNS DAOにおけるガバナンスの原則、そして技術ロードマップの進捗について明らかにしていきます。
シリーズの前2回を見逃した方は、2024年のガバナンス全体のハイライトや、2024年のSNS機能に関する詳細をチェックしてください。それでは、シリーズ最終回となる今回は、Internet Computerの中枢であるNNS(Network Nervous System)を取り上げます。
ICPのNNS DAOのハイライト
はじめに
NNS(Network Nervous System)は、Internet Computer Protocol(ICP)を統治するオンチェーンの分散型自律組織(DAO)です。プロトコルのアップデート、ノードの管理、ガバナンスとトークン設計を導くルールなど、ネットワークの将来に関するすべての意思決定を担っています。
本記事では、2024年に実施されたNNSガバナンス改善のための主なアップデートや新機能を詳しくご紹介します。
2024年の大きな焦点は、ガバナンスへの積極的な参加を促進・強化することでした。まずは、なぜNNSガバナンスへの参加がICPエコシステムにとって重要なのかを解説し、それを実現するために導入された主要な改善策を見ていきます。さらに、その他の注目すべき進展も紹介します。
ガバナンス参加:ICPのセキュリティを支える背骨
Internet Computerのプロトコルに対するすべての変更は、「提案」によって行われ、その可否はNNS参加者による投票で決定されます。この投票は、ロックされたICPを保有する「ニューロン(neuron)」によって行われます。
参加者は、提案を自ら投票することも、信頼できる専門家に投票権を委任すること(=フォロー(following))も可能です。
ICPのセキュリティと信頼性を確保するうえで、NNSが分散化されていることは極めて重要です。特定の一者がプロトコルを改変したりネットワークを支配することができないようにするためです。そのためには、独立したガバナンス参加者による慎重で的確な意思決定が必要です。
NNSが「直接投票」と「投票の委任」の両方を可能にしていることにより、この目標は以下の2つの柱で成り立っています:
アクティブな投票者:独立した投票者は、提案を詳細に精査し、十分に情報を得たうえで投票するべきです。提案数が多いため、こうしたアクティブ投票者は個人でなく組織体である場合もあります。こうした投票者が多ければ多いほど、提案が見逃されるリスクが減り、権力の集中も防げます。
意識的なフォロー選択:自分で投票しない人も、誰をフォローするかを慎重に選ぶ必要があります。選んだ専門家が知識と判断力を持っているかどうかは、定期的に見直されるべきです。これにより、常に「信頼」と「専門性」が投票に反映されます。
2024年のNNS参加促進施策
こうした背景から、2024年に導入されたNNS関連の施策や機能は、多くがガバナンス参加の活性化という重要目標に向けられていました。その中でも特に効果的だったものを詳しく見ていきましょう。
まずは、「直接投票の促進」と「投票をより簡単にするための機能」から:
アクティブ投票への助成金制度
前述の通り、提案を精査し、見逃さないアクティブ投票者の存在は重要です。ICPのすべての変更はオンチェーン提案でなされるため、提案の多くはコードを含んだ高度に技術的な内容となっています。これらの審査には専門的な知識と時間が必要です。
この作業に専門家が取り組みやすくするために、**「投票助成金(Voting Grants)」**が導入されました。助成金はDFINITY財団が資金を提供し、受給者はNNS上の一連の提案によって決定されました。
この取り組みにより、受給者は各種提案に対して詳細なレビューを行い、提案者にフィードバックを提供しました。そのレビューはコミュニティと共有され、彼らが「フォローに値する専門家」であるかどうかの判断材料となります。
2025年には?投票助成金はアクティブ参加を促すための第一歩として有効でしたが、現状では資金源がDFINITYに依存しています。今後は、提案を丁寧にレビューし、質の高い意思決定を行った投票者に自動で報酬が与えられる組み込み型の報酬システムへの移行が予定されています。
NNS dappでのアクション可能な提案の表示
NNS dapp(NNSのウェブアプリ)は、「まだ投票可能な提案」を明確に表示する機能を導入しました(以下スクリーンショット参照)。これにより、直接投票者が提案を見逃す可能性が減り、ユーザーが「今自分ができるアクション」が一目で分かるようになりました。これは投票の参加率向上にも寄与しています。

さらに、2024年に始まった以下の機能は、先述の**第二の目標(投票権を委任しているユーザーの意識的な見直しを促す)**を支援するものです。
定期確認(Periodic confirmation)
2024年に設計され、導入された重要な機能として「定期確認」があります。これは、報酬を継続的に受け取るためには、ガバナンス参加者が6か月に1回以上、以下のいずれかを行う必要があるというものです:
直接投票する
フォロー設定を行う
既存のフォロー設定を確認・再承認する
この条件を満たさなかった場合、その参加者の報酬は段階的に減少し、7か月後にはゼロになり、その時点でフォロー設定も無効化されます。
この仕組みによって、ユーザーは「自分が誰をフォローしているか」を積極的に見直すことが促され、ガバナンスやネットワークの優先事項に即した形での投票委任が実現されます。この機能は2024年にコミュニティと広く議論され、そのハイレベル設計がモーション提案により承認されました。
2025年には?
この機能は2025年1月にNNSに実装されました。具体的なアクション方法は、このフォーラム投稿で確認できます。
最後に、すべての人にとってガバナンス参加をより簡単にするために導入された機能群をご紹介します:
提案トピックの新しい分類
投票権を委任する参加者は、「提案トピック」ごとにフォロー先を指定できます。つまり、技術提案はAさん、経済提案はBさん、というように分野ごとに専門家を選ぶことが可能です。
2024年にはこの提案トピックの分類が一新され、これにより以下の利点が得られました:
助成金を受け取ったような直接投票者が特定トピックにコミットしやすくなり、そのトピックにおける信頼できる専門家としての立場を築くことができる
フォローする側も、異なるガバナンス領域をより分かりやすく把握し、「誰をどの分野でフォローするか」を明確に選びやすくなる
「NNS Explained」教育シリーズ
新しい参加者のオンボーディングや、NNSガバナンスの理解促進を目的として、チュートリアル形式の教育シリーズ「NNS Explained」が始まりました。このシリーズでは:
ICPトークンの取得方法
ガバナンス参加の始め方(投票やフォローの設定方法)
を初心者向けに解説しています。
また、上級者や専門家向けには、各種提案の分析方法を深掘りして紹介するコンテンツも含まれており、幅広い層に対応した設計となっています。
DFINITYのニューロン統合
2024年のもう一つの重要なアップデートは、DFINITY Foundationと**Internet Computer Association(ICA)**の2つの「ニューロン」(=投票アイデンティティ)を統合したことです。
Neuron 28(ICA)はNeuron 27(DFINITY)に統合されました。これにより、投票プロセスが簡素化され、DFINITYへの投票委任を希望するユーザーにとっても、フォローの設定がより分かりやすくなりました。
その他2024年の注目機能
ガバナンス参加促進以外でも、2024年には以下のような重要な機能が導入されました:
投票の公開/非公開設定
提案に対するニューロンの投票行動を公開するか非公開にするかを、ユーザーが選択できるようになりました。
この機能は、投票の透明性とプライバシーのバランスをとる上で重要な一歩です。大勢のフォロワーを獲得したいユーザーにとっては投票の可視化が有効ですが、一方でプライバシーを重視するユーザーにとっては非公開設定が必要です。
この柔軟性の導入により、**「ニューロンのインデックス化」**といった、かねてより要望のあった機能の土台も整いました。
結論
2024年は、NNSガバナンス、特にガバナンス参加の活性化において大きな前進があった年でした。2025年も、コミュニティとの議論を重ねながら、NNSのさらなる進化が期待されます。
この記事が気に入った方へ:ICPのDAOに参加してみたい方は、チュートリアルを活用してぜひ挑戦してみてください。そして、感想はDFINITY DevelopersのXチャンネルでぜひお聞かせください。お待ちしています!
Comments